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IT活用で接客スタッフのメンタルヘルスを守る  第2回 接客サービス業のメンタルヘルス不調は発見しづらい

最終更新: 3月9日


従業員のメンタルサポートできてますか?





全業種と比較して、「宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業では、『仕事の先行きが不安定』『世帯の経済的な苦しさが増した』との内容が多かった」。


厚生労働省が2020年9月に行った調査結果です※。コロナ禍が続く2021年となり、その不安感や苦しさは増すばかりだと思われます。




本稿では、ホテルや飲食店、小売店のような接客サービスに関わる方々のメンタルヘルスについて全3回で考え、そのサポートの参考にしていただきたいと考えています。


※今回引用の調査結果は「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査結果」令和2年12月25日 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/datasyuu.pdf



第二回 接客サービス業のメンタルヘルス不調は発見しづらい



コロナ禍のため、誰もが親しい人達との接触を長期間制限されてしまっています。

メンタル不調の原因となるような長期間のストレスにさらされた時、職場の同僚や上司、親しい友人達に気づいてもらったり、回復の手助けをしてもらうということが難しくなりました。


接客サービス業のメンタル不調は、コロナ禍の前から発見しづらく回復しづらい傾向がありました。今回はその傾向について、「感情労働」という考え方も含めてご説明します。



接客業は「感情労働」

                                          接客サービス業には「感情労働」という性質があります。

「感情労働」とは社会学者のA・R・ホックシールド氏により提唱された考え方で、現代日本では以下のように解釈できます。


・従業員が、お客様のために「喜びや悲しみなどに共感する」ことに商品価値がある。


・自らに非が無い場合でも、客の無礼な態度や非常識な要求などを受け止め、自分の感情を抑え、礼儀正しく適切に対応しなければならない時がある。


・愛想笑いやお世辞のような「表層演技」だと顧客に見透かされてかえって不快感を与える可能性があるため、内面で賞賛や謝罪などの感情を生じさせた上で行動する「深層演技」を必要とする時もある。


 「深層演技」は感情労働において重要であり、より高いレベルができるようになるほどに顧客満足度も高まり、その接客スタッフの評価も高まります。










感情労働は自発的な感情を隠すようになる


 しかし深層演技のためには、自発的に生じる怒りや悲しみ、苦しみなどの本来の感情を根底から抑圧しなければならないことがあります。理不尽に暴言を浴びせ続けるクレーマーに対してでも、心から理解や共感の姿勢を示し、敬い、丁寧にお詫びをするような場面などです。

 このように感情を根底から抑圧しなければならない状況を続けると、勤務時間外でも無意識に感情の抑圧を継続するようになってしまうことがあります。これは、「抑圧していた方が、業務で感じていた負の感情を思い出さずに済む」という自己防衛もあると考えられます。誰だって帰宅してくつろぐ時に、昼間、理不尽に暴言を浴びせられた惨めな気持ちを思い出したく無いわけですから。

 その結果、家族や親しい人の前でも「笑顔で仕事をしている」「ストレス無く仕事をしている」ような演技をし続けられるようになります。どんなにストレスを蓄積していたとしてもです。


 この演技は、ストレスが限界を超えてメンタルや心身の不調を生じさせるまで続けることができますす。明らかな不調が生じるまで、周囲の人は気づけないということです。

 つまり業務上必要となる「深層演技」が、接客スタッフをメンタル不調の深刻化から救う機会を奪ってしまうのです。

 

数年前、私のクライアントでも「接客業が天職」と自他共に認める接客スタッフが、専門医からメンタル不調の診断を受けたて休職するケースがありました。

 誰も不調や異変に気づかなかったのかと思い、同じ部署のスタッフにヒアリングをしたところ、「変わった様子なんか一切ないですよ。いつもどおりで。むしろ僕らより明るいぐらい。休職の3日前に呑みに行って相談にものってもらいました。いつもどおりアドバイスもらって、一緒に頑張ろうって意気投合しました。」とのことでした。


 また、不調を生じさせた人は、休職ではなく退職を申し出ることもよくあります。本人としては「お客様の対応に疲れた」「心からお客様のことを考えられなくなった」と感じ、「自分は接客をする資格が無い」と判断して退職してしまうようです。そのように思い込んでいると、退職時に人事担当者が退職理由をヒアリングしても、本当の原因を話すことはないでしょう。本人でさえ気づいていないのですから。

 結果、人事担当者もメンタル不調を生じさせている現場の状況を把握できず、次のメンタル不調者や退職者を生み続けることになってしまいます。




コロナ禍では感情労働のストレスは回復しづらく、メンタル不調の原因になりやすい


 コロナ禍は人々のストレスを深刻化し、以前以上にストレス回復しづらくしています。

回復しづらい原因として、「コロナ禍のストレスは終わりが見えないため不安が増大しつづけている」「本社や管理職側も未経験のことばかりで、メンタルケアまで気を配れない」などのように多くの業種共通のことがあります。


 さらに感情労働を行う方々は「感情労働が報われる場」、つまり感情労働でのストレスを回復する場を失ってしまいました。

 感情労働が報いられるのは、「お客様に喜んでいただけた」「お役に立つことができた」と実感した時です。つまり、お客様からのポジティブな感情が「報酬」となり、感情労働の疲労やストレスを回復していました。

 具体的には、「良いサービスに感謝やお褒めの言葉を頂いた」「心からの笑顔を見せていただいた」「お困りのことを解決するお手伝いができた」という時です。この瞬間があるからこそ、接客サービス業を選び、日々のストレスに耐えることができているというサービススタッフも多いのではないでしょうか。

 しかしコロナ禍で休業となり、その瞬間を感じられる場が消滅してしまいました。


 場が無くなるというストレスは、日々の業務で生じるストレスよりも大きいようです。

 複数ホテルを運営する企業の人事担当者から、「休業しているホテルのスタッフにメンタル不調と思われる者が数名いるらしい。一方、営業継続しているホテルスタッフからは不調者が出ていない。コロナ禍で営業する方がストレスかと思っていたが、休業で自宅待機していても強いストレスなのかもしれない」と相談がありました。

 実際、ホテル別に無記名のWEBアンケートを行うと、休業中のホテルスタッフからも「強い不安」「不眠」「顔面の痙攣」など不調を示す人が多いことが判りました。職種では、フロントやレストラン、売店の販売など接客する方々にその傾向が強く現れました。一方、調理スタッフは「いつかやりたいと思っていた食材やレシピの勉強などがじっくりできた」という方も多く、メンタル不調の傾向はあまり見られませんでした。

 また営業継続したとしても、接客はマスクや飛散防止シート越しで、接触頻度そのものも減らし「お客様に喜んでいただけた」「お役に立つことができた」と実感し、ポジティブな感情を得られる場面は減ってしまっています。



IT活用でまずは現状把握


 接客スタッフのいる企業の人事担当者や責任者の方は、まず接客スタッフの現状を把握するよう取り組んでください。

 把握にはWEBアンケートが便利です。無料で多機能のアンケートを利用できるので、自社にあったものを活用してください。

 内容は、自社の業態やメンタルヘルスなどの状況に応じて設計してください。「選択式」と「記述式」、「問題点を入力」と「改善したら良いことを入力」などから選んでください。

 

なおパワハラなどが横行している組織では、パワハラ加害者の名前が記載されることもあります。記載された加害者の中には、反省せずに自分の名前を書いた人を特定し、威嚇や脅迫などをする人もいます。様々な事態が想定されるので、回答者が特定できないように無記名にするなどの配慮を行ってください。







メンタル不調の可能性がある時

 WEBアンケートの集計結果でメンタル不調が確認されたり、職場で「今までできていたことができなくなる、同じミスを繰り返す」というスタッフがいる場合には、精神科医のような専門家に相談してください。早期に相談するほど短期間で回復できる可能性が高まります。

 精神科医への相談に抵抗がある場合には、まずは全スタッフに対して厚生労働省のサイトを紹介し、セルフチェックしてもらった上で必要ならば相談してほしいと伝えておくことでも良いでしょう。



メンタル不調に関する厚生労働省サイト:

・「5分でできる職場のストレスチェック」

  https://kokoro.mhlw.go.jp/tool/tool-worker/

・「新型コロナウイルス感染症対策(こころのケア)」

  https://kokoro.mhlw.go.jp/etc/coronavirus_info/


WEBアンケート以外にも、メンタル不調の予防や回復に役立つITツールは多数あります。その点は、「第三回 IT活用で予防と回復をサポートする」で解説します。


参考文献:

「管理される心―感情が商品になるとき」 A.R. ホックシールド(著) 世界思想社

「ひと相手の仕事はなぜ疲れるのか―感情労働の時代 」武井 麻子(著) 大和書房

「「おもてなし」という残酷社会」榎本 博明(著) 平凡社新書




河野 隆

A&Cアソシエイツ株式会社 常務取締役

上海埃和希企业管理咨询有限公司 董事長

株式会社MD.ネット 顧問

国内系大手経営コンサルティング会社に入社後、リゾートホテルチェーンやエステサロンなどでの人材育成や顧客満足向上のコンサルティングを実施。2010年より上海で日系自動車メーカーやアパレルの教育研修会社を運営。2018年よりアンガーマネジメントやレジリエンス、メンタルヘルスに関するコンサルティングを行っている。



A&Cアソシエイツ(株)

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